七海の物語 ①

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『ただいま。』 案の定、玄関に顔を出したのは父であった。 あたしの父である、本宮 太陽、職業は医師である。 ずっと、大学病院で勤務していたのだが、10年前から地元の診療所で所長兼医師として地域医療に携わっていた。 地域医療と言う響きは良いが、大学病院でバリバリ働いていた父が、小さな診療所で働くようになったのは、本人は決して口には出さないが、小さかったあたしや兄の為なのだろう。 『おかえり。 来なさい、話しあるんだろ?』 (そらきた、やっぱりだ。倉地の野郎、手まわしやがって……。) 『電話でも、いったん?』 あたしは、なるべく自分のイライラを見せない様に話した。 本当は、今にも爆発しそうなくらいイライラしていた。 何に? 勝手ばかり言っている大人や、グチグチしている……自分に。
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