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亜希は久保を起こさないように、そろり、そろりと壁ぎわの戸棚の前まで移動すると、頭上と足元の戸棚の中を探り始めた。
――違う。
――これも、違う。
見つかるのは消毒液や絆創膏、滅菌ガーゼばかりで、内服薬は見当たらない。
(……もしかして、胃薬は置いてないのかな?)
そう思ったら、余計に痛みが増してくる。
(痛……ッ。)
次第に額に脂汗を掻き始める。
亜希は一人で探す事を諦めると、仕方なしにベッドで気持ち良さそうに眠る久保を起こす事にした。
「――久保セン、起きて。」
肩を揺すってみるものの、それくらいじゃ目を覚ます気配がない。
――痛みに顔が歪む。
ギュッと絞られるような痛み。
それはじわじわと強くなってくる。
「久保……セ……。」
痛みに耐えられなくなって、体をくの字に折り曲げると、亜希はどさりと久保の上に折り重なるようにして突っ伏した。
――目の前にいるのに、声にならない。
一方、さすがの久保も胸の重みに眉をひそめた。
腕で払いたくても、腕も重みで動かない。
「……ん……ッ。」
寝返りも試みたが、それも出来ず、目が覚める。
「まさか骨格標本じゃないよな」と思いながら、うっすらと目を開けると、黒い塊が胸元に乗っかっている事に気が付いた。
「……う、うわあああッ!!」
びっくりしながら身を起こし、引き剥がそうとすると、その手は久保のティーシャツを縋るように掴む。
「――ちょ、マジ、か、勘弁してッ!」
そう大声で喚いて自分の腹の上にいるのが亜希だと気付いた。
久保は一気に脱力した。
「――お前、何してるんだよお。びびらせるなよ。」
亜希もその一部始終に、胃が痛いのを一瞬忘れて、力ないまま、少し微笑む。
しかし、すぐに辛そうな顔に戻ると、ぱくぱくと口を開け閉めした。
「……ん? なんだ?」
「お……腹……。」
「――お腹?」
ギュッと眉根を寄せて、亜希が小さく頷く。
久保がさっと顔色を変える。
「もしかして、お腹が痛いのか?」
弱々しく頷く亜希の様子に、ティーシャツを掴んできている手首を取る。
そして、その冷たさに久保は目を丸くした。
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