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苦しんでいる亜希の肩にも触れてみたが、そこもひんやりとしている。
「……進藤、立てるか?」
力なく首を横に振る亜希に、久保は手を貸すと、その冷えきっている体を抱き抱えるようにしてベッドの中に引っ張り込んだ。
「――ほら、ちゃんと布団の中に入れ。」
横になるのも億劫そうな亜希だったが、首を横に振る。
「……薬を貰ったら戻るよ?」
「――つべこべ言ってないで、良いから入るッ!」
亜希は久保の厳しい口調に逆らう気力も失せて、こくりと頷くと、のろのろと掛け布団の中にお邪魔する。
(あったかい……。)
布団の中は久保の体温で人肌に温まっている。
――優しい温もり。
亜希は心地よさにうっとりと目を細めた。
と、おもむろに久保の腕が伸びてくる。
亜希はぐいと久保に抱き寄せられた。
「……ったく、こんなに冷やして。」
まるで親鳥が雛を抱きかえるような自然さで、何のためらいもなく、亜希を懐に抱く。
――温かな腕。
その程よい重みと共に、じわじわと体温が伝わってくる。
久保の胸に顔を埋めと、ぴったりと寄り添う。
徐々に体が温まり始めると、胃袋を締め付けていた痛みは少しずつ緩んでいく。
始めこそ浅く速かった亜希の呼吸も、だんだんとゆっくりになり、落ち着いたものへと変わっていった。
「……そろそろ治まったか?」
「――うん、だいぶ良い。」
「……ったく。あんなに体を冷やしたら、風邪、引くぞ?」
「だって、久保セン、起きてくれないんだもん。」
「――俺のせいかよ?」
「……何度も起こしたんだよ?」
「本当に?」
「――うん。」
互いの吐息をすぐ傍に感じる。
「起こしちゃって、ごめんね。」
「病院に連れて行った方が良いか?」
「……ううん、たぶん平気。」
月明かりの中、今度は首を横に振る気配がする。
「胃薬でも飲めば治るかと思って保健室まで来たんだけど、見つからなくて……。」
「――胃薬? 胸焼けでもしたのか?」
「……ううん。胃袋を雑巾絞りされてる感じだったの。」
「雑巾絞り?」
「そう、ぎゅうって引き絞られる感覚……。」
すると、久保はハハッと声を立てて笑った。
「……久保セン、耳元で五月蝿いよ。」
片眉を吊り上げて、文句を言う。
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