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――ドクン。
耳元で心臓の音がする。
そして、ごくりと生唾を呑み込むと、恐る恐るきつく抱き締めていた腕を解く。
「こ、これで……良いか?」
「……うん。」
久保に腕を解いてもらって安堵したのか、亜希の体から力が抜けた。
その分、本人も気付かぬうちに、久保の胸に寄りかかる重みが増える。
(ちょっ……?!)
頭の中が真っ白になる。
――心地よい重み。
安心しきった亜希は、とろとろと眠り始めている。
口の中が乾上がる。
うっすらとした月明かりの中で、色も判別出来ない状態ながら、自分がゆでダコみたいに真っ赤になっているのが分かる。
(マジ、勘弁……。)
これなら骨格標本に潰されていた方が、まだ良かったかもしれない。
今の状態は、とてもじゃないが眠れそうにない。
久保は目を泳がせながら、この動揺を亜希に気付かれまいと、少し身動ぎした。
(隣のベッドを借りよう……。)
久保はすやすやと寝息を立て始めた亜希をそのままに、ベッドを抜け出そうとする。
しかし、久保は上半身だけ起き上がったところで動きを止めると、思わず頬を引きつらせた。
――固く握られた手。
逃がすまいと言わんばかりに、亜希の手は固く握られている。
「――進藤ぉ。」
久保が隣で半泣きになっている事など、全く解する事もなく、亜希はすやすや寝息を立てている。
そして、再び体が冷えてきたのか、亜希は「んん」と唸りながらだんご虫みたいに体を丸めていく。
自然、久保も引っ張られる。
「――進藤。手ぇ、離して?」
ダメ元で耳元で囁いてみる。
しかし、案の定、何の反応もない。
(やっぱり、ダメか……。)
月明かりを頼りに目を凝らしてみれば、眉間に皺を寄せたままで眠っていて、何だか苦しそうだ。
(……怖い夢でも見てるのか?)
自分が騒いだせいかもしれないが、彼女の体はまだ冷えている。
久保は「はあ」とため息を吐く。
すっかり亜希を起こす気は失せてしまっていた。
諦めて、もそもそと蓑虫みたいに蠢くと、亜希の肩まで布団を掛け直す。
そして、布団の上から邪気払いをするかのように、優しく、ぽん、ぽんと単調なリズムを奏で始めた。
(……もう、大丈夫だ。)
自分の首に縋りつき、消え入りそうな声で呟いた亜希の声を思い出す。
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