5人が本棚に入れています
本棚に追加
やってしまった。
唇を抑えつつ己の持てる体力をもって橋から離れる。
火照る顔は隠すことができないけれど、心臓は早鐘を打つ。
走っているから、なんてものじゃない。理由はわかっているから。
帰るフリして、でもどうしても気になって戻ってきた。
もしも、杉浦が心変わりして、明良(あきら)と付き合ったらどうしよう。明良は元々、杉浦に惚れてた。もしも告白なんてしてて、杉浦が気持ちを入れ替えたら俺の居場所なんてなくなる。
それだけが怖かったから、様子を見に戻った。
***
元々、生まれ持った才能も魅力も金もない俺は、明良にとってただの幼馴染ってだけの存在。そんな俺が、幼少のころから片思いをしていたなんて、自分でもなんて気持ち悪いんだろうと思う。
俺にとっての明良はキラキラといつも輝いていて、俺には眩しいくらい。裕福な家に生まれたあいつと出会ったのは公園だった。一生懸命、ドロドロになりながら一人ボールを蹴る姿に目を引き寄せられて目が離せなくなってた。
それからは、あの公園で二人でドロドロになりながらボールを蹴っていた。だけど、ただそれだけで。家の方針か、それとも周りの見方か。明良はいつも一人で。だから俺は一緒にいた。最初は可哀想だと思ったんだ。金持ちで、なんでも持っていたのに、全然笑わない。だけど、ボールを蹴っている姿だけは本当に楽しそうだったから。
だけどいつしか、俺といるようになって笑うようになった。それが嬉しかった。
ある日俺は親の転勤で少し離れたところに引越しをすることになった。だから、あの公園にはもう行けなくなって。明良に別れを告げたら強がっていたけど、俺は泣いた。そうしたら明良まで泣くから。
俺は、サッカーをひとりでやっても楽しくない、というか明良がいたから楽しかったんだということが分かって野球を始めた。でも中学で肘を壊してあの公園でしょぼくれてたら明良が現れて、またサッカーをやろうって言ってくれた。
無条件で繋がってた幼馴染という関係に、サッカーが追加されて嬉しかった。そのことで明良が俺のことを見てくれるのが嬉しかったから。もう、明良に対して特別の感情があったのにも気づいていたから。
同じ高校に通うようになって、その気持ちも抑えるのはもう難しくて。
俺は、明良がこれ以上にないくらい好きだったから。
***
.
最初のコメントを投稿しよう!