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冬。
俺は「受験勉強をしろ」という母の小言を無視して、いつもの場所――カードショップに来ていた。
学校の帰り道にあるカードショップで子供たちと勝負をする日々。最初は簡単に負けていた子供たちだったが、今は本気を出しても冷汗をかく場面が多くなってきていた。
「《空帝 エアリオル》でとどめだ!」
だけど、プレイングではまだまだ俺には及ばない。
「負けたーーーー! やっぱり強いよ、陽色お兄ちゃん」
「そういうな、さっき《エクセレント・リボーン》を使われた時にはさすがにひやっとした」
「でも負けたら意味ないよー」
そう子供が半泣きになる。陽色は子供の頭に手を置きながらいつもの口調で答えた。
「俺だっていつもは負けっぱなしさ。でも、お前だって前よりは強くなっているだろ?」
「そうだけどー」
「だったら日々精進だ。デッキは一朝一夕で強くなるがプレイヤーの腕はすぐには良くならないからな」
そう言って陽色は窓を見ると、一人の女の子がこちらを見ていた。今日はたまたまフリースペースに俺とこの子供以外の姿はない。その勝負をうらやましそうに見ていたのだ。
「あの子ってさ、いつもいるよな」
「そうだねー。……陽色お兄ちゃん、もしかして?」
「んなわけないだろ。ただ……、カードゲームはみんなでやったほうが楽しいんだ。なのに誰かが彼女を誘おうとすると一目散に逃げて行っちまう。一番やりたそうにしているのにな」
「一緒に遊びたいの?」
その問いに俺は首を縦に振った。
「当たり前だろ。カードゲームはみんなのものだ」
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