第1話

2/17
前へ
/17ページ
次へ
「あの、」  少し気まずそうな、そして申し訳そうな声が響いた。特別高いわけじゃないその声は、どうしてか僕の耳にぶれることなく、まっすぐに届いた。  部活終の午後六時は、(夏の間はまだ明るかったというのに)十二月の中旬の今は真っ暗に日が落ちてしまっている。まだ外に出て十分程度しか経っていないというのに、手は凍りついたようにかじかんでしまっていた。  声の主である彼女――うちの部活のマネージャーの古坂梨花子――は、マフラーをぐるぐる首に巻きつけて(もしかしたらいつのも倍くらいの太さにも見えなくもない)、ホットココア(僕が買ったやつだ)をしっかりと両手で握って、上目遣いに僕を見つめていた。 「なに」 僕が問うと、彼女は少しばかり眉を下げる。 「うん……あの、ね」 視線を、逸らす。 「土曜日の、部活のことなんだけど……」 「土曜?」 「そう。二十、四日の」 「あぁ。全員、来れるってさ」 古坂も来れるだろ? 喉元まで出たその言葉を、声になる寸前でのみのんだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加