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「椎名先輩?」
「そう。なんだか、みんなを育てるって張り切ってたよ」
「ふう、ん……なんで、古坂が知ってるの」
「……え、」
しまった。そんな顔をして、うつむく。
彼女は、百五十五センチ。僕は百七十五センチ。身長差が、二十センチもあるうえに、彼女の長い髪が邪魔をして、うつむいてしまった彼女の表情を伺うことは、できない。
うつむいたまま、彼女は僕にボールを渡し続けて、僕と言えば、彼女が何を考えているのか、どうして椎名先輩の帰省を聞いているのか、が気になりながら、心ここにあらずでサーブを打ち続けた。
僕の心に、焦り、とか、不安、だとか、そんな感情が渦巻く。もしかして、彼女は椎名先輩が好きなのではないだろうか。少し前からうすうす感づき始めてはいたけれど、次の言葉で、あぁ、やっぱりか、脱力感にも似た感覚を、覚えることになる。
――この時までは、差は、そんなについていなかった。追いつかれてはいたけれど、まだ、追い抜かされてはいない、はずだった。
彼女は、その直後から、ものすごい勢いで駆け抜けていったのだ。
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