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標準よりも小さな手が、細い針を握る。
真剣な眼差しで真っ白なフェルト生地を見つめて、ひと針ひと針慎重に縫っていく。
(こいつ、家庭科2じゃなかったか?)
毛糸が入っていそうなバスケットを覗けば色とりどりのフェルトが詰め込まれていた。
何を急に………
こいつとはもう14年の付き合いになるが、裁縫道具を使っているところなんてたったの一度も見たことがなかった。
もっとも、学年が違うから授業中のことはわからないが。
「彩帆」
「あーやーほ」
……返事なし。
こいつはいったい何をしに来たんだ。
目の前に広がるのは真っ白な壁。
120度ほどに折り曲げた体にかかっているのは、清潔そうな真っ白なシーツ。
(こいつ……俺の見舞いじゃねえのかよ)
ベッドの真横におかれた丸イスに腰かけている彩帆は、俺の主治医の愛娘。
小山先生の奥さんは、本当は俺なんかと関わらせたくないらしい。
俺への態度で丸わかりだ。
いつも面会時間ギリギリまで居座るこいつを、ズルズルと引きずるように連れて帰る。
結局、毎日会っているのだ。
会う度に……つまりは毎日鋭い視線でにらまれているのだからたまったもんじゃない。
彩帆に対して一度は“毎日来るな”と言ってみたものの(小山先生の奥さんほど怖い人はいないんだ、きっと)
“なんで?”と小動物のような目で見つめられたら、それまでだった。
(にしてもこいつ、集中しすぎだろ)
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