第3話

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「先輩、先輩、今日は何読んでんですか?」  あーあーあー。  また来た。  わたしは彼の声が聞こえていないフリをして、手元にある本に再び視線を落とした。  後輩の野村涼太くんは最近やたらと私の前に現れる  ……というより、この読書の時間に現れる。  毎日この屋上に、お昼休みに。 「先輩?」  暖かい日が照っているのに、彼はそれを遮った。  そして興味津々に本の中身を覗いてくる。  中身覗いたってわかんないでしょうが。とか心の中でつっこんでみたり。  しかしわかんないからと引き下がるようなやつではないのは、さすがにわかってきたわたし。  彼の明るい茶髪が文字を隠す。 「せーんーぱーいー」  どうしても知りたいのか、彼はわたしの前から……いや、わたしと本の間から離れない。  (これじゃあ本が読めないじゃないか)  そんな風に思いながら、実はこのゆったりした空気が好きだ。 「『モモ』。ミヒャエル・エンデの」  きっと知らないだろう。  君はまったく本を読まないみたいだからね。 「おもしろいの?」 「うん。貸したげよっか」 「んー、いらない」  私はまた本に視線をもどした。  ペラペラと本をめくる音だけが響く。
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