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「先輩、先輩、今日は何読んでんですか?」
あーあーあー。
また来た。
わたしは彼の声が聞こえていないフリをして、手元にある本に再び視線を落とした。
後輩の野村涼太くんは最近やたらと私の前に現れる
……というより、この読書の時間に現れる。
毎日この屋上に、お昼休みに。
「先輩?」
暖かい日が照っているのに、彼はそれを遮った。
そして興味津々に本の中身を覗いてくる。
中身覗いたってわかんないでしょうが。とか心の中でつっこんでみたり。
しかしわかんないからと引き下がるようなやつではないのは、さすがにわかってきたわたし。
彼の明るい茶髪が文字を隠す。
「せーんーぱーいー」
どうしても知りたいのか、彼はわたしの前から……いや、わたしと本の間から離れない。
(これじゃあ本が読めないじゃないか)
そんな風に思いながら、実はこのゆったりした空気が好きだ。
「『モモ』。ミヒャエル・エンデの」
きっと知らないだろう。
君はまったく本を読まないみたいだからね。
「おもしろいの?」
「うん。貸したげよっか」
「んー、いらない」
私はまた本に視線をもどした。
ペラペラと本をめくる音だけが響く。
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