7人が本棚に入れています
本棚に追加
3月の卒業式以来クラスメイトには誰1人会っ ていない。
もちろん引っ越しの日も伝えていない。
涙のお別れなんてまっぴら御免だと意地を張っ て、電話が来ても訪ねてきても、絶対に部屋か ら出なかった。
だけど本当は羨ましかったんだ。
中学でまた、同じ部に入って一緒にバスケがで きる仲間達が羨ましくて、自分だけその仲間に 入れない事が辛くて。
だから父さんを恨んで、母さんに八つ当たりし て、何も知らずに呑気な涼香も憎らしかった。
いつの間にか自分の居場所すら見失ってた俺 が、今は見知らぬ町での暮らしに、顔見知りの いない中学に、少しだけ期待しているなんて。
T市の自宅に戻った俺は、今日偶然見かけたあ の子、夢海の事を思い出していた。
――――夢海、か……。クラス、一緒になれっ かな?会ったらまずなんて話しかけようか。
どのタイミングでどんな言葉を交わすかなん て、当日の成り行きに任せよう。
ただ、絶対に伝えたい言葉だけは決まってい た。
後は勇気を振り絞るだけ。
断られたらどうしようなんて考えなかった。い や、考えたくなかった。
俺にはもう何もないから、あの子しかいない、 あの子だけはと大袈裟なくらい願う。
それほどまでに、俺は精神的に追い詰められて いた。
なかなか休みが取れない父さんの都合で、引っ 越しはなんと入学式当日。
確実に式には間に合わない時間。だけど、ホー ムルームに間に合えば問題ないと、再会を心待 ちする。
最初のコメントを投稿しよう!