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…俺は自室に戻ると、ベッドに座ってため息をついた。
『…人は色ヶなモノをなくしながら、大人になっていくモノだよ?レン』
…誰かが俺に言った言葉。
一番上の兄は、命を亡くした。
二番目の兄は、片腕をなくした。
そして、俺は…。
…そう、俺は生まれた時からなにかを持ってさえいなかったのかもしれない。
何も望まず、何にも関心を持たないから何も失わない。…何かが無くなっても。失った感覚がない。
執着しないことがいい事なのか悪い事なのか。
…そんな俺が任された任務ではじめてしくじったのは、今から9年前…。
王の側室からの依頼で、正室の子供の命を奪いに行った時だ。
「…悪く思うなよ?」
…そう言ってナイフを突き立てようとした俺に、ソイツは無邪気に笑って手を伸ばしたんだ。
「…なんで?なんで笑うんだよ」
頬を涙が伝った。
…なんて、俺とコイツはま逆なんだろう。
光みたいにまぶしくて、自分の黒さが目立つようで。
…惨めな気分になった。
俺には、コイツは殺せない。
けれど、それは同時に自分の死を意味していた。
…一族に殺せない奴は、必要ない。
俺は帰ったら長に殺されるのだろう。
息をひそめていた、林道の茂みの中。…うずくまり膝を抱えていた俺に。
何も持たない、誰にも気づかれないちっぽけな俺に。
…手を差し伸べてくれたのが、ムラキだった。
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