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真弓は結核であった。当時のその病気はもはや治せる病ではなかった。
その上、この丹波家にそれを看病するための財産はもうほとんどなかった。
戦争の人員収集以前、丹波家は旅館を営んでおり其処ら辺では少し有名であった。
しかし、父も、跡取りとして育たれた兄・大空も戦争に出向いている。
ので丹波家は現在その家には母のお菊、長女の真弓、次女の菜々のみであった。
十分な栄養も、十分な看病も満足にできるハズはなかった。
そんな状況下ではそうならざるを得なかった。
真弓は空になった茶碗をお盆の上に乗せ一息を付いた。
「ごちそうさま、菜々。わざわざ悪いわね」
着物を着込んでいてどこかに出かける様子だ。
「お姉ちゃん、大丈夫?辛くなったら言っていいんだからね」
お盆に片付け隣に座っている。
「わかったよ。お姉ちゃんのことは気にしないでいいから」
「・・・・・・うん」
そう言うと、ふとカレンダーを見上げた。
「もう七夕だね」
生暖かい湿った風が部屋の中に入ってきた。
「お兄ちゃんとお父さん、どうしているかな」
「え……さあどうしているかね」
何事もないように言い放った。
一階から、行くよー。という母、お菊が呼んでいる。
菜々はあっじゃあねと言って片付けて下に行った。
真弓は心に空いた、ポッカリと空いてしまった穴をしばらく埋められなかった。
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