第1話

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2人が外出したのを確認して、真弓は今朝のタオルを持って一階へ降りた。 しかし思うように足が上がらず度々転びそうになる。 「歳かな……」 台所の余り水があるのを確認して手に持っていたタオルを中に入れる。 慎重に洗っていくが、完全に落ちるわけでもない。 手に浸透していく冷たさが心地よかった気もした。 諦めて再び2階へ戻っていく。 ポツポツと音を立てながら真弓は再び自室へ戻るのであった。 外はまだ暗い。しかしだんだんと雨音が弱くなっている様な気もした。 もう正午を回っているのだろうか。それとも否か。 それすらもはっきりしない中、ただただ呆然と布団についた。 目を閉じても眠れるわけでもない。 「そうだ」 傍らに置いてあった本に手を伸ばす。 文庫本サイズだが紐で袋とじにされている。 ペラペラと捲っていく、大体の内容は理解している。 スラッと中から栞が落ちる。 顔の上に落ちてすこし擽(くすぐ)ったい。 手に取ると、特に何も書いていない、 「なにこれ」 裏側を見ると何かが書いてある。  白檀弓 今春山尓 去雲之 逝哉将別 戀敷物乎 「いや、なにこれ」 学校では少なからず勉強はしていた方であったが何もわからない。 最初の「白」までしか理解できなかった。 右下の端に名前が書いてある。 丹波大空、兄の名前だ。 その下に日付が書いてある、「7月7日」と。 兄の大空が戦地に出向いた日の前日だった。 あの日は晴れだった。そうだったなぁと栞を手にし再び本を閉じる。 ハッとして起き上がる。 何かに釣られるかのように向かいべやの兄の部屋へ行った。 意識が失くなった。いや、そんな気分だった。
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