封印

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 ソファの傍らに姿を現したシャナンは、消え入りそうな声で言った。 「私のすることをいちいち見張るつもりか?」  カナーンは、腕組をしてため息をついた。 「そんなこと……あなたが、邪魔をするなと言ったから」 「姿を消して私の周りをうろついているのであれば、同じことだ」 「カナーン、わざと私を挑発したのでしょう」 「挑発? そんなことをして何になるというのだ。お前など、初めから眼中にはない。この娘をじっくりと味わっていただけのこと」 「どうして、私を避けるの? カナーン、忘れてしまったの? 二人で交わしたあの誓いを。私は、あなたを封印しただけではなく、あなたの心までも封印してしまったの?」 「誓いなど知らぬ。それに、未熟なお前は私を封印できなかったのだ。私を封印したのは、神父だ」  カナーンは自虐的な笑みを浮かべた。 「お前も覚えているはずだ。あの若い神父を。あいつはお前に気持ちを寄せていた。だから、私がおまえを同族に迎え入れたことを知り、私を灰にするのを躊躇ったのだ。私を灰にしてしまえば、お前も消えてしまうからな。だからお前が責任を感じる必要はない」 「そんな……あの神父が……」  顔を両手で覆って、シャナンはその場に崩折れた。 「加えて言えば、その神父の匂いがあのはるやという若造から僅かばかりだが匂う。私が覚醒したあの夜、半覚醒状態の三神加奈で若造を襲おうとした時に気づいた。ふ、因縁だな。あの神父の末裔が身近にいるとは。若造といることで、三神加奈の存在は増し、このカナーンは力が萎える。お前を好いていた神父の末裔が、こともあろうか、憎むべき吸血鬼カナーンである私に、それと知らず好意を寄せるとは。間の抜けた話だ。それとも、神が我が魂を封印するために遣わしたのか」  カナーンはクックッと笑い声を漏らした。 「では、はるやといる限り、カナーンは本来の姿に戻れないというの?」 「……今宵のように、処女の匂いに誘われて我が魂が呼び起こされることもあるだろう。……とにかく、シャナン、私の前から立ち去れ」 シャナンから目をそらしたカナーンの横顔は、悲しそうに沈んで見えた。 「カナーン、まだ何か私に隠している? もしかして、神父に戒めをかけられたのではないの?」 「勘ぐるな。何もありはしない」
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