封印

9/10
前へ
/48ページ
次へ
 そう言って、シャナンはいとおしそうに加奈を優しく抱き締めた。  加奈が持っていた買い物袋が、雪の上に落ちた。 「ねえ、私と行きましょう。人間の男といても、あなたは辛いだけ。私の元へいらっしゃい」  髪を撫ぜるシャナンの指先を感じる。  シャナンの体から微かに匂う薔薇の香りが心地よい。  シャナンは人の血が通っていないはずなのに、抱き締められると、体中が火照って暖かく感じた。  人通りもなく、車も通らず、静まり返った二人だけの世界。  雪が二人を包み込んでいた。  降り続く雪が二人を隠す。 「シャナン……」  加奈は夢見心地だった。  何度、こうして抱きしめられることを夢に見ただろうか。  加奈は吸い寄せられるように、シャナンの赤い唇にそっと唇を重ねた。  ひんやりとした柔らかな感触。  シャナン、愛している……。  加奈はキスをしながらシャナンをきつく抱き締めた。  ――シャナン、愛しいシャナン。  手離したくない。  私の一噛みで蘇ったシャナン。  あのままそっと逝かせてあげたほうがよかったのか。  だが、死に逝くお前を黙ってみていられなかったのだ。  許せ。  私はお前に会う資格がない。  お前の生を脅かしたくはない。  加奈の意識に別の意識が流れ込んできた。  慈愛に満ちた優しい感情。  後悔と自責の念。  激しい葛藤。  カナーンなのだろうか。 「加奈、どうかしたの?」  シャナンは唇を離して抱き締めていた腕を解き、うつろな表情の加 奈に向かって不安そうに声をかけた。 「なんでも、ない」 「もしかして、カナーンが来たの?」  加奈の両腕に手をかけ、顔を見上げたシャナンの探るような瞳が、加奈の瞳を捉えた。  そんな目で見ないでほしい。  シャナンはカナーンに会いたいの?   加奈ではだめなの。  お願いだから加奈を見て。  しかし、加奈は口に出さなかった。  シャナンの瞳を見れば、よくわかったから。  シャナンの口からはっきりそうだと言われるのは辛い。 「カナーン」  そう呼びかけて、シャナンは加奈を再び抱き締めようとしたが、加奈はシャナンの手を振り払った。 「カナーンは、シャナンを避けている。会いたくないと思っている」
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加