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「カナーンの考えていることがわかるの?」
「少しだけ、感じた」
加奈はカナーンの想いには触れなかった。
カナーンに嫉妬していたのだ。
「何故、何故私を避けるの? もう以前のカナーンではなくなってしまったの?」
捨てられて心細そうにしている子猫のように、震える声でシャナンは加奈にすがった。
「シャナン……」
泣きそうなシャナンを、加奈は抱き締めてあげたくなった。
加奈の腕が無意識に動き、シャナンを抱き締めた。
これは自分の意思だろうか。
それとも、カナーンの……。
加奈はわからなくなっていた。
「泣くな、カナーンはシャナンの傍にいてはいけないのだ。お前は、私から離れて生きるのだ」
加奈の意識はあった。
だが、カナーンに支配されているのか、口が勝手に動く。
「カナーン!」
「いや、私は加奈だ」
「違う、カナーンだわ」
シャナンが少し背伸びして加奈に口付けしようとしたが、加奈は顔を背けた。
「だめだ。カナーンはお前のことなど想っていない。ただの下僕に過ぎぬ」
溢れ出るカナーンの強烈な想いを、加奈は感じていた。
――シャナンを巻き込みたくない。
どういう意味だろうか。
「カナーンはお前のことなど眼中にない。生娘の甘く芳しい血のみが、カナーンを満たすことができるのだ。私の前から去れ」
シャナンの深く青い瞳から、涙が流れた。
「本気で言っているの?」
「何度も言わせるな。お前のことなど眼中にない」
今度はシャナンが涙をためていても、優しい手は差し伸べられなかった。
棘を刺したように胸が痛む。
苦しい。
カナーンと加奈の気持ちが重なった。
淡雪が、体温のない二人に冷たく降り積もっていた。
加奈のふりをしたカナーンは、立ち尽くすシャナンを残して足早にその場を去った。
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