決別

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決別

 雪が降って薄暗かったとはいえ、やはり日中の行動は体に堪えた。  三神加奈はマンションへ帰宅し、けだるい体をソファに横たえて目を瞑り、深い眠りに落ちた。  これは夢だ。  霧の中、加奈は自分の姿を遠くに見ながらそう思った。  もう一人の自分がいる。  もう一人の自分は次第にこちらへ近寄ってきた。  黒いマントで身を包み、堂々と落ち着き払った威厳のある態度。 「カナーンなの?」  自分と同じ顔をした彼女はこちらに向かって微笑みかけてきた。  畏怖と敬愛の感情が自然と沸き起こるような、美しい微笑。  自分と同じ顔をしているはずなのに、その微笑みに魅了され、思わずかしずいてしまいそうになる雰囲気があった。 「三神加奈。いや、その名を借りた私の半身」  カナーンの声、自分と同じ声が頭の中に直接響いてきた。 「進んで自らを封印し、長く、己を人と思い込み、三神加奈として生きてきた。この呪われた我が身をシャナンの前に二度とさらしたくはなかったのだが……シャナンに再会し目覚めてしまった」  どういうことだろう。  カナーンは目覚めたくなかったのか。  シャナンに会った時も避けていた。  カナーンはシャナンを愛しているのではないのか。 「心して聞くが良い。我が命を狙う神父の末裔が、山崎はるやだったのは偶然とは思えぬ。あの男は我が身を封印し続ける杭になっているのだ。おそらく神父は、何度も生まれ変わり、ずっと以前より我が身を監視していたのだろう。もし、私がシャナンと一緒になろうものなら、神父は怒り狂い、山崎はるやの神父としての資質が目覚め、我らを亡き者にしようとするだろう。シャナンも生を奪われるかもしれぬ。シャナンを巻き添えにしたくないのだ。シャナンを愛しているのであれば、シャナンを愛してはいけない。よいな? 人間に身をやつしていたとはいえ、お前は私の半身。人間ではないのだ。人間から見れば呪われた血だが、誇り高き吸血鬼だということを忘れるな。この地を発ち、シャナンの前から姿を消すのだ」  カナーンの姿が加奈の目の前からすうっと消えた。  直接頭の中に語りかけてくるようなカナーンの声は、そこで、はたと聞こえなくなった。  
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