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その数時間後、山崎はるやは誰もいない暗い部屋に帰宅して呆然と立ち尽くしたのだった。
「加奈……行ってしまったのか」
はるやはその場に崩れるように床へ膝を突いて座り込み、がっくりとうなだれた。
数分そうしていたのだが、苦しそうに低いうめき声を上げて肩を震わせ始めたのだった。
そして、両拳を握り締めたかと思うと床を力任せに叩きつけたのだった。
温和なはるやらしからぬ行動だった。
「……許さない。お前はすすんで化け物に……カナーンになるというのだな。シャナン嬢と共に、慈悲をかけてやったのに恩を仇で返すとは。我が花嫁シャナンをかどわかし、我が怒りに触れた哀れな吸血鬼め! 許さない。シャナン嬢と共にいるというのであれば、必ず見つけ出し、息の根を止めてくれる!」
顔を上げた山崎はるやは、もはや、温和な笑顔の好青年という面影は微塵もなかった。
顔を紅潮させ、怒りで打ち震えているその形相は、カナーンにプライドを傷つけられ、嫉妬に狂い、永遠を彷徨い続けているパウル・バートリ神父そのものだった。
山崎はるやに潜んでいた、パウル・バートリ神父の意識が覚醒したのだった。
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