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シャナンはカナーンが誰に向かって話しているのかわからずに、不安そうな顔をしてカナーンを見上げていた。
加奈の意識はすっかり眠ってしまったわけではなかったのだ。
カナーンは頭に響いてくる加奈の声に一喝したのだった。
カナーンは堂々とした風格を漂わせ、人を魅了させる怪しい光をたたえた琥珀色の瞳を、シャナンに向けた。
「何を怒っているの?」
「……加奈に、バートリの恐ろしさも話しておくべきだった。折角の忠告を無視し、二人で行動するとは無謀なことを。今からでも遅くはない。シャナン、金輪際、私にかかわるな」
「嫌、もう離れない。どこまでもついていきます」
「お前も充分わかっているはずだ。それがどんなに危険なことか。灰になりたいのか?」
「私はカナーンといられるのであれば、灰になろうと構わない」
「馬鹿なことを考えるな」
真っ直ぐに見つめるシャナンに、カナーンは顔を背けて苛々した口調で声を荒げた。
――どういうこと? バートリ神父はそんなに強い力を持っているの?
加奈の声が再びカナーンの頭の中に響いたが、カナーンは聞こえないかのようにその声を無視した。
「一人で生き続けたくない。私はカナーンのもの。私の存在はあなた次第。加奈は……加奈は私を守ってくれると言ってくれたわ」
「ふん、何も知らない奴の戯言だ」
「でも嬉しかった。それに、きっともう遅いわ。バートリは目覚めた。そんな気配が感じられる。カナーンも感じるでしょう?」
「私に、バートリと戦えというのか」
「そんなこと望まない。一緒にいるだけでいいの」
「戦わずして負けるなどとは、吸血鬼の名に恥ずべき行動……だが、今の私は弱い。バートリに簡単に消されてしまうだろう」
「カナーン」
心配そうにカナーンの顔を見上げるシャナンの青い瞳。
「……早急に力を蓄えなければ」
困ったように、カナーンは口角の端を少し上げ、微かに笑った。
シャナンは目を細めてカナーンの足元に体を摺り寄せた。
「嬉しい……」
「もう、後戻りはできないぞ」
カナーンはかがんでシャナンの腰を片手で軽く抱きよせ、顎に手をかけて、乱暴に唇を奪った。
これが最後の抱擁とでもいうように、カナーンは激しく、いつまでもシャナンを放さなかった。
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