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昼休み、席に着いてぼんやりしていた加奈に、シャナンが声をかけた。
「であれば、シャナンが姿を消していればいい」
そう言いながら、加奈の目は遠巻きにこちらをうかがっている女生徒達を物色していた。
「意地悪ね」
シャナンは寂しそうに微笑んだ。
またやってしまった。
つい冷たい言葉が口を付いて出てしまう。
謝ろうかと思った時には、シャナンはふいと背を向けて廊下へと出て行ってしまった。
九ヶ月間、共に過ごしていたが心はすれ違っていた。
加奈の他人行儀でぎこちない態度が、シャナンの顔を曇らせる。
シャナンの中には、遠い昔のカナーンとの日々が強く焼き付けられているのだ。
加奈には未だその記憶が蘇らない。
加奈の中のカナーンの記憶は硬く閉ざされていた。
悲しみをたたえた瞳で加奈を見つめるシャナンに、加奈は焦りともどかしさを感じて自分に苛立っていた。
そして、八つ当たりとわかっていても、ついシャナンに冷たい言葉をぶつけてしまうのだ。
こんなに愛しているのに。
だが、そんなことで悩んでいる余裕はなかった。
いつまでもこうして山崎はるや――バートリ神父から逃れられるわけではない。
力を蓄えなければ。
夜の歓楽街ではそうそう上質の獲物に出会うことはなかった。
今回、効率よく獲物を確保するために女子高を選んだのだ。
加奈の力を蓄えるために。
その点では、カナーンと加奈の意見は一致していた。
力を蓄えた後は……加奈はバートリ神父と対峙しようと考えていたのだが、シャナンは加奈の提案に無言で弱々しく微笑むだけだった。
カナーンはといえば、心を閉ざし、加奈の呼びかけに応じる気配もなく、沈黙を守っていた。
「あのお、三神さんと森羅さんて、お知り合いなんですか?」
遠巻きにして加奈を伺っていたクラスメイトの一人が、おずおずと近づき、声をかけてきた。
「ええ、親戚なの」
「それで、なんとなく雰囲気が似ているのね。見た感じは違うのに」
ストレートロングヘアで丸顔の彼女は、恥ずかしそうに頬を染め、納得したように頷いた。
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