対面

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 似ているというのか。  あんなに優美なシャナンと。  似ても似つかないではないか。  褒めるにも程がある。  加奈は内心苦笑した。  どうしたら獲物を虜にできるか。  それは充分実践し、要領を得ていたのだが、加奈はそれが自分の魅力なのだとは自覚していなかったのだ。 「そう、ありがとう」  納得がいかなかったが、加奈はとりあえず彼女に笑み返した。 「森羅さんとは寮も同じお部屋なの?」 「そうよ。そんなことより、あなた、昼食をご一緒してくれる?」 「私でよければ!」  染めていた頬を一層真っ赤にさせて、彼女は満面の笑みで返事をした。  美人というより、可愛らしさが残る面持ちの彼女は、処女の匂いを感じさせる。  どうせ獲物にするなら上質の血がほしい。  加奈はにっこりと微笑んだ。    しんとした長い廊下。  皆、食堂へ行き、人影はない。  シャナンは窓辺に寄りかかり、外を眺めていた。  細かな雪が絶え間なく白い地面に降り積もる。  冬は落ち着く。  薄暗い空が、降り積もる雪が、この身を包み隠してくれる気がする。  シャナンは、鬱々とした気持で小さく息を吐き出した。  折角めぐり逢えたのに、カナーンの記憶は封印されたままなのだ。  九ヶ月前に抱擁を交わした後、加奈はシャナンに触れようとはしなかった。  九ヶ月間が空虚に過ぎていた。  ゴトッ。  鍵がかかっているはずの大きな窓の一つが、いきなり大きな音を立てて開いた。  風もなくゆっくりと舞い降りていた雪が、小さな竜巻となって、シャナンの足元にからみつくように渦巻いた。 「バートリ神父!」  見つかってしまった。もう逃げおおせることはできない。  シャナンは身を硬くした。 「シャナン、久しぶりにお目にかかれて嬉しく思う。貴女に名を呼んでいただけるとは光栄だ。だが、私は神父ではない。一介の神父が、このような力を持ち合わせていると思うか?」  実体を現し、シャナンの数歩前に降り立ったバートリ神父は、もはや山崎はるやの外見を留めていなかった。  黄金色の髪に碧眼の青年、遠い昔に記憶していたバートリ神父の姿。  しかし、神父には似つかわしくない黒いマントを引きずっている。
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