対面

4/4
前へ
/48ページ
次へ
「貴女がいけないのだ。私を虜にしたのに、あの吸血鬼を助けるから……私はあの時、悪魔と契約を交わして魂を売った。貴女を手に入れるために。そして、城の者を操り、ようやく貴女を手に入れられる手筈だったところをあいつが邪魔をしたのだ。あいつだけは許さない。私はあいつと貴女を絶対一緒にさせないと決めたのだ」  悪魔と成り果てたパウル・バートリは、シャナンににじり寄り、窓辺にシャナンを追い詰めて、体をぴたりと合わせ、シャナンの鼻先に顔を近づけた。 「美しい……貴女の美しい顔をひと時も忘れたことはない。今からでも遅くはない。私の花嫁となれば、カナーンのことはそっとしておいてやってもいい」  嘗め回すように見つめるパウルに怯え、シャナンは彼を払いのけることができなかった。  遠い昔の忘れがたく悲しい出来事。 「カナーンが灰となれば、私も同じ運命だということを忘れたの?」 「私は強力な魔力を手に入れたのだ。私の妻となれば吸血鬼カナーンの下僕という立場から解放し、マスターであるカナーンがいなくとも貴女が消え去ることはない」  震える声で反論したシャナンに、バートリは不敵な笑みを浮かべて言い放った。 「森羅さん! 探したわよ。なんだ、バートリ先生といたんだ。三神さんが食堂で心配していたわよ」 「バートリ先生?」  シャナンは耳を疑った。  女生徒から目をはずし、再びバートリの方を見ると、そこには背広姿のパウル・バートリが穏やかな笑みを浮かべて立っていた。  開け放たれた窓も、いつの間にか閉まっている。 「森羅さん、先生だって知らないで話していたの? 英語担当のパウル・バートリ先生よ。人気あるんだから。ねっ、セーンセ!」 「さ、森羅さん、昼食を食べそびれてしまいますよ。ではまた後ほど」  軽く手を挙げて、バートリ先生は反対方向へと廊下を歩いていった。  なんということだ。  バートリが潜んでいたとは。  もっとよく調べておくべきだった。  シャナンは目の前が暗くなり、ふらふらと重い足を引きずるようにして食堂へ向かった。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加