不安定なカナーン

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 離れようとしたが、カナーンに長い黒髪をつかまれて、身動きがとれず、無理に上を向かせられ、その口を唇で乱暴に塞がれてしまった。  シャナンはカナーンの腕の中でもがくが、カナーンの力にはかなわなかった。 「こんな……嫌!」  やっとの思いでカナーンから離れたシャナンは、よろよろと廊下の壁に寄りかかった。  その頬は高潮し、瞳は潤み、息を弾ませながら。  久しぶりの口付けだった。  カナーンに口付けされると、欲望に我を忘れてしまう。  媚薬のような魔性の口付け。  シャナンでさえ、その魔力には太刀打ちできない。  火照った身体をいさめようと、シャナンは目を瞑った。 「ふん。お前に、私を拒む理由などないではないか。このカナーンを好いているのだろう? 三神加奈が消え去り、元来のカナーンに会えて嬉しいか」 「どちらも……カナーンに変わりはない。人間的な優しさのある加奈も好きよ。無理をしないで」  総てが以前のカナーンになっていたわけではなかった。  過去の記憶は未だ戻らぬまま、人間の弱さを兼ね備えた三神加奈も混在している。  カナーンであろうとするが故に、虚勢を張っているのではと思える粗野な部分を、シャナンは度々垣間見ていた。  カナーンは決して無理強いをしなかった。  物腰も、もっと気品に満ちていた。  今の不安定なカナーンで、バートリと対峙できるのか。  カナーンの子供じみた乱暴な行動は、シャナンを一層不安にさせた。  カナーンの気配がすぐそばに感じ、シャナンは目を開けた。  身体に触れるほどの位置にカナーンは立っていた。 「どうしたというのだ」  カナーンはシャナンの不安を感じ取ったのか、安心させようとしたのだろう。  口の端をあげて無理に笑っていた。 「いつも傍にいて、私を避けないで。貴女が何処かに行ってしまいそうな気がしてならないの」 「お前は、何も心配しなくていい」  そう言って、カナーンはシャナンの肩に手を置いた。  窓から入り込む月明かりに照らされたシャナンは、白い肌が透き通るように美しく、白いガウンに漆黒の長い髪が悩ましく揺れ、挑発しているようにカナーンの目に映った。
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