来襲

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来襲

「――長い旅だった」  シャナンは過去を思い、ため息と供に呟いた。  寮の狭いシングルベッドに二人は並んで寝ていた。  廊下で熱く愛し合ったあと、カナーンが歩けなくなったシャナンを抱き上げて部屋まで運んだのだった。  吸血鬼には都合の良い、夜が長い冬。夜が明けるにはもう少し時間がかかりそうだった。  カナーンは制服の白いワイシャツ一枚羽織っただけの姿でシャナンの傍らに肩肘をついて横向きに寝そべり、目を細めてシャナンを愛しむような視線を注いでいる。  カナーンの温かい視線を感じられるのが嬉しくて、シャナンは自然と微笑み返した。  仰向けに寝ていたシャナンは、ガウンの前がはだけているような気がして襟元を直し、照れ隠しするようにカナーンに語りかけた。 「覚えている? 私が最初にあなたを見つけたのは二百年程前だったかしら。そのときも、あなたは吸血鬼カナーンとしての記憶がなくて、私をひどく恐れたの。ショックだった。私の術が未熟で吸血鬼の匂いを消すだけではなく記憶までも封印してしまったのだと、それからずっと自分を責めていた」 「済まぬ。覚えていない」  カナーンは呻くように答えた。  カナーンの記憶は未だほとんどの部分が欠けていた。  自分がいったい何百年生きてきたのか、どんな生き方をしてきたのか思い出せないのだ。  人だった頃のシャナンとの出会いの記憶が若干と、自分が三神加奈だった頃のことが辛うじてまだらにわかる程度だった。 「――見つける度にあなたはこの手からすり抜けていったの。それでも諦めず、何度も何度も掴もうとして、その度に恐れられ、拒絶されて」  シャナンはカナーンを探し続けたのだった。  カナーンは人に紛れ、自分のことを人だと思い込んだ状態で転々とさ迷っていた。  勿論、歳はとらない。  入り込んだ家族が不振に思い始めると、忽然と姿を消して魔力の力で違う家族に紛れ込んだのだった。  それでも自分は人なのだと強く思い込んだ状態で、食事を摂り、夜は眠る生活をして、人であり続けようとした。
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