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カナーンは三神加奈としてシャナンに出会い、カナーンの部分が覚醒したことによって吸血鬼の資質がようやく目覚めたのだ。
「私を探すなどと馬鹿なことをしなければ、お前は幸せだったのではないか」
「カナーンは孤独がどんなに辛いものかということまで忘れてしまったの? カナーンもずっと孤独に生きてきたのでしょう? もう離れない。もう孤独は嫌!」
「孤独か……」
シャナンの抗議にカナーンは考え込むように唸った。
「私はカナーンと再び会いたい一心で生きてきた。だから、あなたがいない世界には私も存在しないの」
「お前の命を懸けるほどの価値は私には無い」
「今更そんなことを言って、どうしてそう卑屈になるの? バートリが怖いの?」
「怖くなどない。ただ――」
カナーンはシャナンの頬にためらいがちに片手を当てて、
「お前を失うのが怖いのだ」
と、うめくように言った。
「カナーン……」
シャナンは頬に添えられたカナーンの手を挟み込むように、自分の手を添えて、いとおしそうにその手に頬ずりをした。
これ以上何もいらない。
今、このときがあればいい。
シャナンは満ち足りていた。
真冬の薄暗い空に朝日が顔を出し始めて、カーテンをしていなかった部屋は白み始めた。
明るくなってきた部屋で、二人はどちらともなく口付けを交わした。
と、そのとき、廊下から奇妙な声が聞こえてきた。
「誰だ!」
カナーンは弾かれたようにベッドから立ち上がった。
「ククク……」
それは、喉を鳴らすような笑い声だった。
二人をあざ笑っているように聞こえる。
一人ではない。
複数の少女達の笑い声が途切れなくこだましていた。
「バートリの仕業か!」
カナーンは勢いよく部屋の扉を蹴り開けた。
バキッと音を立てて扉が倒れたその先には、制服姿の少女二十人ばかりが部屋を取り囲み、瞳に異様な光を湛えて二人を待ち構えていた。
「バートリに操られているようだな」
ククク、と不気味な笑い声をたてながら、少女達はじりじりと二人を取り囲み始めた。
シャナンはカナーンの背後にぴったりと寄り添って腕にしがみついた。
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