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淡雪が舞っていた。
雪のせいで、昼間だというのに辺りは薄暗かった。
手袋をはめなくても寒く感じない。
奇異にみられるため、コートだけは羽織っていた。
「いるんでしょう? シャナン」
三神加奈は、買い物の帰り道、誰もいない住宅街の路上で、空に向かって呼びかけた。
時折記憶が飛ぶ。
その間隔が次第に短くなっていた。
しかし、不思議なことに、山崎はるやといる時には自分の中のカナーンが現れることはなかった。
きっとシャナンは何か知っているに違いない。
自分は一体どうなっているのか。これからどうなるのか。
加奈はシャナンに訊きたかった。
記憶が飛んだ後、我に返った時の満ち足りた感覚。
英気を取り戻し、力のみなぎりさえ感じる。
カナーンが若い娘を手にかけているに違いなかった。
正気を取り戻した後に漂う、血の匂い。
その匂いが嫌ではない自分にショックを受けた。
もう、不安だなどといっている場合ではなかった。
これ以上、犠牲者を出したくはない。
だからといって、お互い仕事のある身で、山崎はるやと始終一緒にいるわけにもいかなかった。
シャナンなら、カナーンを封じておく手立てを知っているかもしれない。
加奈はそう考えていた。
しかし、シャナンの想い人であるカナーンを封印する方法など、そう易々とシャナンが教えてくれるとも思えなかった。
シャナンの想い人は、カナーン。
カナーンもシャナンが好きなのだろうか。
三神加奈としてシャナンに惹かれているのか、カナーンの意識に引っ張られ、シャナンに惹かれているのか、加奈自身、今もまだわからない。
姿が昔と全く変わらないシャナンに再開して戸惑ってしまったが、シャナンが好きだという気持ちはその後も変わらなかった。
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