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自分であって、自分でない者。
自分の中にいるもう一人の自分に嫉妬してしまう。
加奈は複雑な気持ちでいた。
「シャナン! お願い、姿を見せて!」
降り積もっている雪が舞い、黒い人影がその中に現れた。
「傍に必ずいるわけではないわ」
「シャナン」
黒いブーツに黒のロングコートをまとい、長く緩やかなウエーブのある漆黒の髪を肩に垂らし、真っ白な景色にたたずんでいるシャナン。
黒ずくめの中、白い肌と真紅の唇が艶かしい。
その姿を目にするたびに胸が熱くなる。
だが、いつもと違い、シャナンは疲れた瞳をして畏怖を抱かせる強靭な視線は感じられなかった。
「なにか、あったの?」
「……加奈は知らない方がいいかもしれない」
いつになく、シャナンは気弱な態度だ。
「カナーンのこと? だったら、知っておきたい」
加奈は勇気を振り絞って聞いた。
「決して自分を責めないで。あなたが意識のない間にカナーンは若い娘を手当たり次第、手にかけている」
「十数人?」
恐る恐る加奈は聞いた。
「いいえ、もっと」
加奈は絶句した。
カナーンは吸血鬼。
若い娘を糧にして生きる異形のものだと頭ではわかっていたが、そんなに多くの犠牲者が出ているとは思っても見なかった。
手にかけられた娘達は、その後どうなってしまったのか。
死? それとも、永遠をさまようのか。
加奈はそれ以上、恐ろしくて訊けなかった。
考えたくなかったが、犠牲になった娘達のおかげで、加奈もまた生きているのだ。
犠牲者がいて、自分が存在する。
耐えられないことだが、だからといって自分から命を絶つ勇気もなかった。
加奈は心のどこかで、これは自分の仕業ではない、カナーンが勝手にやったことだと責任逃れをしていた。
そう思っていないと、気が変になってしまいそうだった。
シャナンもカナーンと同じように若い娘を手にかけているのだろうか。
シャナンはカナーンが若い娘を手にかけても、なんとも思わないのか。
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