封印

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そんなことを考えながら、同時にそれが愚問だということも、加奈はよくわかっていた。  吸血鬼にとって、生と性はきっと密接に関係しているに違いない。  シャナンはカナーンの行為に口出しなどできないのだろう。  その行為を禁止するということは、吸血鬼にとって、死を意味するのではないだろうか。 いや、そもそもシャナンがカナーンの吸血行為に疑問を持ち、口出しするなどとは考えられない。  吸血鬼にとって当たり前すぎる行為なのだから。 「カナーンは、久々にこの世に現れ、力を蓄えている」 加奈があれこれと考えをめぐらしていると、シャナンは重々しい口調で付け加えた。 「じゃあ、カナーンの力が強くなるの?」 「ええ」  シャナンの、気の抜けたようなそっけない返事に、加奈は再びショックを受けた。  自分はこのまま消えてしまうのか。  シャナンは加奈が消えても平気なのか。  自分のことは眼中にないようなシャナンのうつろな瞳。  絶望が加奈の心を支配した。  だが、ここでしょげているわけには行かない。  人の命が、自分の存在が、カナーンに脅かされているのだ。 「シャナン、訊きたいことがあるの」  加奈は思い切って切り出した。 「カナーンを封印する方法、シャナンは知っているのでしょう?」 「カナーンはあなた自身なのよ?」  シャナンは、悲しそうに眉を寄せた。 「だけど、カナーンでいる間の記憶はないもの。私は三神加奈だわ!」 「長い眠りだったから、今はまだ、しっかりと覚醒していないだけ。いずれ自我は一つになるはず」 「三神加奈が消えるということでしょう? それに、知らないうちに人を殺めているなんて耐えられない。お願い! 教えて」 「カナーンを封じる方法なんて、……わからないわ」  苦しそうにシャンは呟いた。 「シャナン、シャナンは今の私、加奈をどう思っているの? 三神加奈のままでも、好きでいてくれる?」  にじり寄った加奈に、シャナンは黙ったまま俯き、雪道の上でじっと身を硬くしていた。  その肩や髪に、雪が降り積もっている。 「……どちらも、カナーンだもの」  間をおいて、シャナンはやっとそう答えた。 「じゃあ、私を助けて! お願い。私、消えたくない」 「あなたは、あなただわ」
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