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「葵ーっ!!葵葵葵~っ!!」
少し向こうにいる葵を見つけ、聖羅はその姿を目的地として走りながら、愛するその人の名前を叫んだ。
手をぶんぶんふりながら葵に呼びかけていると、葵がこちらを向いた。
だけどすぐそっぽを向いて、知らないふり。他人のふり。
「葵おはよう!!」
葵に正面から思いっきり抱きつく。勿論ここは住宅街のなかの、通学路。
通学をする小学生たちの視線が痛い。
「お前マジで離れろ」
「や~だっ」
「こっちがやだ」
「だって二日ぶりに葵に会えたんだもん・・・!」
えへへ、と笑う聖羅。その顔はとても可愛い、癒される。葵の顔を見上げる。
今日も葵はかっこいい。一見冷たそうなその瞳は、本当は優しい。冷たい態度の中にも優しさと愛情がちゃんとあって、私は葵のそんな貴重な愛情が覗くのが好き。
心の中でまたそんなことを語っている。
「葵、おはよう」
もう一度やり直す。葵があいさつを返してくれるまで。
「ああ、おはよう。よし、離れような」
葵は冷や汗。
少し向こうからは小学生の声。
「い・や・だ☆」
ここからが本題だ。
「ねぇ葵、土曜日なにしてたの?日曜日は?ゲームでもしてたの?本読んでたの?どこか出かけていたの?お家のお手伝いでもしてたの?確かに葵の家は厳しいから週に1度家の手伝いと掃除をすることは知ってるけど、まさか一日中それをやってたの?誰ともメールも電話もできないくらいくらい忙しかったの?まさか女の子とデートなんてことはないよね?まぁそれなら私にちゃんと報告してね!大丈夫私はちゃんとふさわしい子なら応援するし殺さないから!あ、本題がずれたね!あのね、用はね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでメールも電話もしたのに返信くれなかったの?」
笑顔で問い詰める聖羅。これは月曜日、いや、いつものことで、こんな修羅場はすでに日常茶飯事である。
最後の本題を言うまでの間がやけに重く、怖い。
目をかっと開いて、夜型な聖羅の目元にある隈と、真っ黒な光のない瞳が、この上なく怖い。
本人はいたって普通だ。
「ああ、そういえば来てたな」
葵は平常心を装い適当に濁す。できるだけこの場を平穏に収めたかった。
何せ公衆の場だ。
葵は一般人と感覚がずれてるため、別にこの聖羅の束縛っぷりは怖くは無い。
いや、昔からずっとこんな風だったら、そりゃもう慣れるかもしれない。
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