砕かれた水晶

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「もう一度舞に会いたい。だから、たかしとはサヨナラだ」 「お父さん、いつも言ってたじゃないか! 人にはそれぞれ目指したい未来があり、変えられない過去がある。だから今を全力で生きろって」 「…………」  ドアの向こうで父がすすり泣いているのが分かった。 「だから、ドアを開けてよ」   「…………俺にはもう……目指す未来はないんだ」  父の最後の言葉は涙で震えていた。  部屋の中から何かを蹴る音。縄が軋み、か細い父の呻き声。  無我夢中でドアを何度も殴りつける。こんな事では開かないのは分かっていた。拳には血が滲み、腕は悲鳴を上げた。動かなくなった右手が僕の理性を取り戻した。  急いで電話で警察を呼んだ。公園にまだいたのだろうか、3分と掛からずパトカーは来た。
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