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「そ、それは……ってんじゃん!」
「重要なところが全然聞き取れねぇよ」
語尾だけ強気で言われても何が言いたいのかさっぱりわからん。ヤンキー化してからは――というよりしてからもの方が正しいけれど、柚葉は言いたいことははっきり言うタイプだ。
その柚葉が躊躇うのだからよほど言いにくいことなのだろう。
僕は空気の読める兄だ。ここはそっとしておこう。
……ん? ちょっと待て。
僕と一緒にいる理由を訊ねたのになんでそんな言うのを躊躇わなければならないんだ?
ブラコンがワープ進化して、もはや兄を異性をして好きになってしまって一緒にいたいとかなら確かに本人には言えないだろうけども、柚葉に限ってそんなことはないだろう。ならどんな理由があるのか。
まさか、柚葉は僕に悟られないよう外敵から守ってくれているのか!?
「柚葉ありがとう!!」
「ふぇ!? お、お兄ちゃん!?」
はっ!? 歓喜極まって思わず抱きついてしまった!!
僕としたことが油断した。すごいいい匂いじゃないか。
「い、いつまで抱きついてるのバカー!!」
「ぐあっ」
勝手な妄想で妹をヒーローにし、思わず抱きついてしまった挙げ句、その妹に突き飛ばされて後頭部を強打する兄の姿が、そこにあった。
というか僕だった。
そして柚葉よ、素が出ちゃってるぞ。
「お兄ちゃ……じゃない。兄ちゃんのバカ!! いきなり抱きつくな!!」
顔を真っ赤にした柚葉は、最後にはヤンキーの仮面をかぶり直して部屋から出ていってしまった。
嵐のように来て、嵐のように去るとはまさにこの事だ。
これが僕の妹であり、僕―― 藍川刻弥(ときや)の日常である。
……ところで、この壊れたドアはどうすればいいのだろうか。
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