1.故郷の人々

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扉を開ける。するとそこは、ひどく殺風景な部屋だ。 八畳程の広さのその部屋には、ベッドを含め、片手で数えられるほどの家具しか置かれていない。 扉の反対側にある窓の傍に置かれたベッドの上に、一人の少女がいた。 窓の向こうへ視線を向けている為、顔は見えない。 長く艶やかな黒髪は腰まで伸び、露出している肌は、驚くほど白い。 記憶の中の少女と比べると、ほんのわずかに日焼けしている。…一般的な観点からすれば、それでも白すぎるけど。 扉を閉め、一歩踏み出す。すると、少女がこちらへ振り向いた。 わずかに茶色がかった黒く穏やかな瞳。整った顔立ち。わりと起伏に富んだ身体。 そして、感情をまったく感じられない、無表情。 それが俺の前にいる少女、神代 霞(カミシロ カスミ)だ。 俺にとって一番大切な、大切な妹。 そんな彼女に向け、俺は呟いた。 「ただいま、霞」 「…おかえり、きりと」 彼女はそう、呟いた。
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