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最近まで、佐々さんとまともに目を合わせられなかった。
「どうかした?」
「え」
「残念そうな顔してるから」
な――。
仮面のような無表情を少し崩した彼に、さっき言われた“バカ”発言を思い出す私は、
「佐々さんの方がバカです。アホウです……」
と、ひっそり悪態をつく。
けれども何も感じていない様子の佐々さんは、私を横目にキッチンへと姿を消す。
心を読まれたようで気まずい私は意味もなく前髪を弄りながらソファーに座ると、また携帯を開いて待つことにした。
――あ。
暫くするとリビングに運ばれてくる、チキンライスのいい香り。
佐々さんが両手に皿を持って出てくると、その正体が分かる。
「はい、ちゃんと食べて。時間掛かっていいから」
「ありがとうございます」
調度いい具合の量で盛られたチキンライスの上に、パリパリに焼かれた玉子が被せられている。
なんか意外……。
「オムライスの玉子、火加減難しいですよね。分かります」
「心なしか笑ってない?」
「いいえ」
「……笑ってるじゃない」
口元に手を当てて笑う。
なんだ、
「簡単な物なら作れるって言ってたの、本当だったんですね」
「最初からそう言ってるでしょ……」
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