153人が本棚に入れています
本棚に追加
手を合わせると、木のスプーンでオムライスの端を崩して一口。
うん、美味しい……。
「私、半熟玉子って苦手なんです」
「気ぃ遣わなくていいです」
本当なのに。
「半熟のとゅるってしたとこ、鼻水みたいで駄目で……」
「あのさ、これで僕が食べられなくなったりしたら、おたくのせいだから」
「あ……すみません、食事中でしたね」
「……絶対わざとだよ」
私は口の端をあげて、もう一口と口に運ぶ。
「……佐々さん、食べないんですか?」
「食べるよ」
「手、止まってますけど」
私が指摘して気付いたのか、佐々さんはやっと手を合わせていただきますと呟く。
「口……ついてますか?」
見られていた気がして、口の周りにケチャップでも付いているのかと思った。
「いや? 僕、人が食事してるところを見るのが好きなんだ」
「へぇ、変わってますね」
「そうかな。必死に生きようとしてる姿がいい」
「生きようと?」
……してるんだ、今。
そっか、食べるって行為はそういうことになるのか。
そう思いながら一口食べてみる。
「お口に合いますか」
「……はい。凄く美味しいです」
最初のコメントを投稿しよう!