ソーダ水(前編)

12/40
前へ
/40ページ
次へ
手を合わせると、木のスプーンでオムライスの端を崩して一口。 うん、美味しい……。 「私、半熟玉子って苦手なんです」 「気ぃ遣わなくていいです」 本当なのに。 「半熟のとゅるってしたとこ、鼻水みたいで駄目で……」 「あのさ、これで僕が食べられなくなったりしたら、おたくのせいだから」 「あ……すみません、食事中でしたね」 「……絶対わざとだよ」 私は口の端をあげて、もう一口と口に運ぶ。 「……佐々さん、食べないんですか?」 「食べるよ」 「手、止まってますけど」 私が指摘して気付いたのか、佐々さんはやっと手を合わせていただきますと呟く。 「口……ついてますか?」 見られていた気がして、口の周りにケチャップでも付いているのかと思った。 「いや? 僕、人が食事してるところを見るのが好きなんだ」 「へぇ、変わってますね」 「そうかな。必死に生きようとしてる姿がいい」 「生きようと?」 ……してるんだ、今。 そっか、食べるって行為はそういうことになるのか。 そう思いながら一口食べてみる。 「お口に合いますか」 「……はい。凄く美味しいです」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

153人が本棚に入れています
本棚に追加