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外に出ると、夜風が生暖かかった。
「あ。佐々さん、靴紐が」
「……あぁ、面倒だからいいよ」
「駄目ですよ、危ないです」
そう言って佐々さんの足元にしゃがむと、ほどけた靴紐を結んであげる。
「立ち止まってる時はいいですけど、歩き出して転んじゃわないように、ちゃんと結ばないと」
「……」
最後はキュッと蝶々結びをして、佐々さんの顔を見上げる。
すると、いつも眠たげな目をしている彼が、今は数ミリ瞼を上げて、私の顔を凝視する。
「はい、いいですよ?」
「……ありがとう。でも、おたくも人のこと言えない」
「え?」
佐々さんの手が胸元に伸びてきてドキリとする。
トン、と人差し指でスカーフを指されると、私は結び目が緩んでいることに気が付く。
鍵を掛ける彼の横でスカーフをほどいて、こちらもきつく結び直した。
「行こうか」
「はい」
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