ソーダ水(前編)

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  ――ミージジジジジ からっと晴れた夏休み初日。 セミの大合唱で目を覚ますと、それは―― 白雪さんと約束している時間の、1時間前だった。 「わ……」 た、大変っ。 髪の毛が逆立ちそうな勢いで焦る私は、タオルケットを蹴ってベッドから起き上がる。 軽く起こる目眩にのそりと立てば、 「どうしよう……」 タンスの引き出しを開けて、床に服を落とす、落とす、落とす。 最終的にはカーペットの色さえ判断出来ないくらい、服で埋もれてしまった床。 「っ――」 いっ……た。 タンスを引き出す時に刺さったのか、相変わらず深爪の親指を見ると棘が刺さっていた。 「もう古いもんね……」 祖父母の代からあるタンスは、引き出す度にポロポロと木の屑が落ちる。 「どうしようかな」 蚊に刺されることと、その羽音が大嫌いな私は、真夏でもタンクトップ1枚になることはない。 年中長袖でも問題ない人間だけど、さすがに今日は隣に人も居ることだし。 「これにしよう」 1、2回しか着ていないTシャツを手に取ると、下の引き出しからスキニーパンツも取り出す。 「いっ――」 あぁ、もう、また刺さった。 急いで良いことなんて、1つもないんだ。
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