ソーダ水(前編)

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「ならさ、そうじゃないならなんで――」 恋愛感情もないのに付き合うようになった理由があるわけで、案の定白雪さんに聞かれる。 「うん……」 笑って、曖昧にすることも考えた。 私の中で病気のことは、もう随分昔のことのように思ってる。 だけどこの話は、まだ最近のことで。 酷くえぐられた傷口も治りきってないのに、話をしてまた泣いてしまうんじゃないかと、そればかりが不安だった。 ……でも、付き合ってることをカミングアウトした時点で、経緯を聞かれることくらい分かっていた筈。 「沙彩ちゃん?」 図書館の一角。 こんな静かな場所では、自分の声は良く通る。 話を始めてしまえばもう、言葉を濁してご想像にお任せします、なんて出来ない。 「……白雪さんは今、楽しい?」 「今っすか? はぁ、そりゃ沙彩ちゃんと初めて外で会って話が出来てるんすから、楽しいよ」 白雪さんは恥ずかし気もなく答えた。 自分の気持ちを素直に相手に伝えられる人だ。 ……私とは違う。 でも今なら、彼女なら、私の下手な話もちゃんと聞いてくれる気がした。
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