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「朝ごはん食べてないからな……」
私が呟けば、点滴バッグを見上げながらおばさんが口を開く。
「只でさえ低血圧なんだから、朝ごはんしっかり食べて体に気を遣いなさいって言ってるのに。沙彩ちゃんのことだから、3食ちゃんと食べてないんでしょう」
「……」
「口を尖らせたって可愛くないわよ」
「酷い……」
「今日みたいに蒸し暑い日は血圧も下がりやすいし、本当に気を付けて?」
「はい……」
「まだ点滴終わりそうにないから、もう一眠りしなさい」
「うん。ありがと、おばさん」
子供の頃に熱を出すと、普段は1個しか食べてはいけないアイスが、その時は2個食べることを許された。
父は筆を置いて、私が眠るまで枕元でお話をしてくれる。
いつも大人という高い壁に囲まれた父を、その瞬間だけは一人占め出来てるみたいで嬉しかったな。
それは、自分が大人になった今でも変わらないみたいだ。
心配されると実感する。
優しさと愛と、温もりと。
昔は心配させることが多くて私は罪悪感でいっぱいだったんだけど。
……やっぱり心地いい。
瞼を閉じると、暫く点滴の落ちる音を聞いて。
私はそっと、意識を手放した。
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