ソーダ水(前編)

40/40
前へ
/40ページ
次へ
「家の空気が重くても、私が笑って2人の仲を繋いでいられるなら、いつも笑っていようって思ったんす」 そう、クッションに頭を乗せて白雪さんがポツリポツリと話す。 「でももう、それも必要なくなったんすけど」 「……」 考えてみた。 白雪さんは、自分の書く小説は自分の憧れだと言う。 私はあの小説を読んで、白雪さんは幸せだから、毎日が楽しいから、いつも笑ってられるんだろうなって思った。 けど違うんだ。 ……違ったんだ。 誤解をしていたことで、白雪さんに謝りたくなる。 「でねっ?」 「う、うん」 急に勢いよく顔を上げた白雪さんに、とにかく今は話を聞こうと私は前のめりになる。 「離婚が決まっても、最後まで笑顔でいようって笑ってた私に、お父さんなんて言ったと思う?」 「なんて言われたの?」 「なんでお前はいつもヘラヘラしてるんだ、って言ったんすよっ?」 「えぇ、そんな……」 「少しは悲しんだりしないのか、寂しいと思わないのか、って。それ言われた瞬間、もーお、腹が立ってね」 「うん……」 「自分が出ていくっていうのに、笑ってる私を見てそう思ったらしいんすけど」 さっきからクッションを叩いていた白雪さんの手が、最後にポスンと静かに落ちる。 「私のやり方……間違ってたみたいっすね」 「……」 「泣いて、喧嘩なんかしないでって言えてれば、それこそ2人を繋いでられたかな」 床を見つめながら、悲しげな表情をする白雪さん。 こんな弱々しい彼女を見るのは、初めて。  
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

153人が本棚に入れています
本棚に追加