第12話 王女のティアラ

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 秋がすっかり深まり、校舎裏の林を通り抜ける剣道場までの道は赤や黄色の落ち葉で埋まった。都剣道大会(高校の部)まで一か月を切って、秋葉高校剣道部の練習は激しさを増していた。ただ、発足間もない女子剣道部員は今回の団体戦を見送り、個人戦に的が絞られた。その個人戦出場者として立花顧問より指名されたのは晶子であった。  晶子は男子部員に交じっての練習を強いられていた。 「よし、練習止め。都剣道大会が間近に迫ってきた。皆、これまでの練習でかなりの域まで達したと思う。これからは、体調を整えて、実力を十分に発揮できるように各自は調整を続けてほしい。なお、部活はこれまでの週三回から従来の週二回の練習に戻す。以上」  瀬川部長の言葉で、夏合宿以来厳しい練習に耐えてきた部員は皆、ほっと安堵の溜息をついた。 「晶子さん、今日は一緒に帰れるね」  澤本一樹が帰り支度の晶子に声をかけた。晶子はいつも三十分間の居残りで立花顧問から直々の指南を受けていたが、今日はそれも放免となった。 「そうね。もう身体が壊れそうだったから、これで一息つけるわ」 「何、何、二人でこれからデート?」  朋美がマネージャ室の鍵を鞄に仕舞いながら、晶子と一樹に声をかけた。 「朋美さんも一緒に行きましょう。近くに、ぜひ紹介したいお店があるので」 「何?また、庶民的なお店なんでしょう」 「そう。庶民も庶民、いや、庶民の古典的なお店というところかな」 「近くにそんなお店あったかしら?」 「晶子さんは興味ありそうだね。まあ、行ってからのお楽しみということで」  晶子たちは剣道場を出ていつもは林を抜けて正門から下校していたが、一樹は反対側の裏門に向かって歩き出した。肌寒さを感じる夕暮れの中、散り積もった枯葉の上をカサカサと音をたててしばらく歩いていくと裏門に出た。  裏門の外は住宅街だったが、学校の塀に沿う道の反対側にはラーメン屋やクリーニング店などのお店が並んでいた。その合い間に相当年季の入った小さなお店があった。「竹虎」という看板を出す駄菓子屋だった。一樹はそのお店にまっすぐに向かっていた。
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