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「まさか、あのメチャふるの駄菓子屋に行く気じゃないでしょうね」
「ハハハ、朋美さん、そのまさかですよ」
「だって、駄菓子屋さんはジャリンコたちがたむろしてるとこでしょう」
「ところが、いまの時間はそうでもないんですよ」
「あっ、朋美。なんかいい匂いがしてきたよ」
「晶子さんは、鼻も鋭いんだね」
そう言い合いながら、三人はガラスの引き戸を開けて竹虎ののれんをくぐった。中は陳列台に所狭しとお菓子や遊び道具が積まれ、柱や梁(はり)からもお菓子や風船、縄跳びなどがぶら下がっている昔ながらの駄菓子屋だった。
だが、店の奥には調理場があって、入り口の右手奥にテーブル席が二つあった。晶子たちは一番奥の席についた。陳列台に積まれた駄菓子や梁から下がったけん玉などの隙間を通して見える調理場では、お婆さんが何やら料理に余念がなかった。晶子が嗅いだ良い匂いはこの料理にあるようだった。
一樹が常連らしく気軽に調理場のお婆さんに声を掛けた。
「おばさん、奥の席に三人座るよ。大学いもを三人分ね」
「あいよ」
「ちょっと、おばさんって呼んだけど、お婆さんじゃないの?」
「朋美さん、だめですよ。おばさんって言わないと。いもの量が減るじゃないですか」
「そうなの。そういうものなの?」
朋美と一樹のやり取りを聞きながら、晶子がテーブル脇に積まれた湯飲み茶わんを人数分取り出し、その傍のポットからお茶を注いでいると、お婆さんがお盆に小皿を三つ乗せてやってきた。
「あっつ、来た。なにこれ、揚げたお芋に蜜がかかってる。初めて見たわ」
「晶子さん、これが大学いもっていう食べ物なんだ。このお店のはとっても美味しいんだよ。それに、ぼくは大学進学希望だから、縁起が良いんじゃないかと思ってときどき来て食べてるんだ」
「ふーん、大学いも。なるほど、美味しいね、晶子」
朋美も晶子も大学いもは初めて食べた。晶子は練習でお腹が空いていたこともあって一気に食べてしまった。それを奥の調理場で見ていたお婆さんが戻ってきて、もう一皿晶子の前に置いた。
「あんた、食べっぷりが良いね。名前はなんていうんだい?気に入ったからこれもお食べな。おまけだよ」
「あっ、晶子です、朝倉晶子。どうもありがとうございます」
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