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「そうですね、晶子さん。わたしの祖母が日本人で、日本語は祖母から習いました。だから、祖母の国である日本にぜひ来たかったのです。あなた方に会えてとてもうれしく思います」
そう言って会釈すると、イザベラは女官に促されるままに次の招待客の方へ向かって去って行った。
宴たけなわの感がある大広間の招待客たちの間を抜け、晶子と朋美は中庭に出てバーベキューの列に並んだ。肉や野菜やロブスターなどの魚介類が鉄板の上でジュージュー音をたてながらあたりに美味しそうな香りを漂わせていた。
取り皿に好みの料理を乗せてもらった二人は中庭に設けられたテーブル席の一つについてその料理を味わった。ボーイが飲み物を二人に持ってきてくれた。中庭からは、照明の明るい大広間の状況がよく見えた。イザベラはまだ招待客の間を回って歩いていた。
「王女さまっていうのも大変ね。ああやって一人一人と言葉を交わしたり握手したりって、食事の時間もなく疲れるでしょね、朋美。ん、このエビ美味しい」
晶子は輪切りにしてもらったロブスターの身をフォークで食べていた。
「そうね、それよりもあのティアラ大丈夫かしら。こんなに大勢の中で落としたりしたら大騒ぎになるわ」
お肉が好物の朋美は一口サイズにカットしてもらったフィレステーキをほおばっていた。
「確かに、目立つわねあのティアラ。そうだ、そういえばあの竹虎のお婆さん、あれっきり姿が見えなくなったわ」
そう言って、晶子はあたりを見回した。
「あの婆さん怪しいわね。ティアラを狙っている盗賊の親玉とかってこともあるかもよ」
「まさか、大学いもを作ってたお婆さんがティアラなんて似合わないわ、ハハハ」
「そうね、大学いもにティアラってなんかうける。ハハハ」
二人が、竹虎のお婆さんを肴に談笑していると、突然、大使館の照明がすべて消えた。大広間や中庭の照明もすべて消えて、会場は暗闇に包まれ騒然となった。
晶子には暗視能力があった。物や人間が放つ熱線の一種で遠赤外線という不可視光線を見ることができたからだ。晶子は朋美が心配していたイザベラと彼女のティアラを暗視した。
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