151人が本棚に入れています
本棚に追加
私は、自分の親指を手の中でギュッと握った。
「両親に気付いてほしくてやったことだから、家では隠すようなことしてなかったんすけど……学校のことは考えてなくて。ちょうど夏服に移行する時期だったから、隠すために包帯なんか巻いて大袈裟になっちゃった。沙彩ちゃん心配してくれたのに、その時は言えなくて……ごめんなさい」
謝る白雪さんに、私は首を横に振る。
そして、1ヶ月前のことを思い出した。
金曜の彼とのことで、一度だけ考えたことがある。
朝起きて、洗面台に置いてあった眉剃り用の小さな剃刀を眺めて――
あの人と会わなくなった今、私が痛いって、生きてるって実感を得られることはもう……無い。
目の前の剃刀を、自分でも血が通っているのか不安になるくらいの白い腕に当てて――実行する勇気もないのにそんなことを考えた。
頭の中で想像して、想像しただけで終わってしまったけれど。
どうかしてると思う。
けどあの時は、そうは思わなかった。
それほど落ちていたんだと思う。
最初のコメントを投稿しよう!