143人が本棚に入れています
本棚に追加
今から切ろうとしていたジャガイモを一旦まな板の上に置いて、体の前で手を組んでその先の言葉を待つ。
「……もう大丈夫なの? 体」
「え?」
もっといろいろ言われるんだと覚悟していたのに、佐々さんの口調は柔らかくなった。
「熱……下がりました」
「長引かなくてよかったね」
佐々さんの言葉にコクリと頷く。
組んだ腕はそのまま、カウンターに肘を着く佐々さんは、
「何が出来るの?」
と、まだ何も始まっていない鍋の中を見つめながら聞いてきた。
「あ、カレーが――」
「カレーか……。そういえば、最近食べてない」
「はい……出来る予定、です」
「何か手伝う?」
「あ、いや……駄目、です。これは恩返しなので」
「……鶴が機を織る感じの」
つる?
「鶴の恩返し」
「っあぁ、それです。だから佐々さんは、ソファーで休んでてください」
あちらへ、の手をつけてリビングへ促すものの、佐々さんはそこから動こうとしない。
「見てる」
「見てる、ですか?」
「することないし」
あくびをする彼。
やりにくいとは言えない。
最初のコメントを投稿しよう!