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今までのあれはなんだったの。
「おたくさ、もっと怖いこと経験してきたんでしょ? あれの何が怖いのよ」
……確かに。
心臓の手術に比べれば、こんなの……。
少し前まで怖がっていた自分が可笑しくて、ふっと笑みがこぼれる。
「ね。僕も見てて笑いそうになった」
さっきの場面を思い出しているのか、表情を変えずに床を見つめる佐々さんは、口に拳を当てて無表情でそう呟く。
別に、笑ってくれればいいのに。
チロッと佐々さんに視線を送って、私は静かに手を合わせた。
いただきます。
「うん……やっぱり久しぶりに食べたら美味しいな、カレー」
久しぶりに食べたから、ですか。
「野々原さんが作ったからかな」
「……」
「美味い」
私はモクモクと口を動かしながら、時々佐々さんを一瞥すると、さっき彼が言っていた言葉を思い出す。
離れすぎるから、怖い。
近づいて、優しくすれば跳ねなかった。
じゃあ……柴田さんに笑顔で接してみれば、何か変わるのかな。
今までの私は、話し掛けてこないで、と態度に出していたのかもしれない。
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