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「この隠れ泣き虫」
「ふ――」
“泣きたいと思って”なんて、言っていいの?
どうしてそんなことが言えるんだろう。
言ってくれるんだろう。
いっそのこと、私のこと好きですか?って問いたいくらい。
……好きですか。
違いますよね。
私だって――。
「あ……ちょっと待った」
だらんと両手を体の横につけて、はらはら涙をこぼしながら佐々さんを見上げる。
「泣けとは言ったけど、外で泣かれちゃ僕の立場が危ういから。ほら、犬の散歩してる叔父さんに変な目で見られてる」
泣けと言われて子供のように泣きじゃくることは出来ないけれど、今私が一番探していた
“泣いていい”
その言葉に、視界はずっと涙でぼやけた。
流しっぱなしでいると、背後を通り過ぎる人の気配を感じた。
俯いた視界にリードを付けられた子犬が現れると、見上げてくる丸い瞳と目が合った。
私はやっと涙を拭うと、
「……?」
佐々さんに腕を引かれる。
「え……」
特別だよ、と彼は、関係者以外入ってはいけないという扉を開いて、私の腕を掴んだまま中へと入った。
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