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「ヒク」
静かに喉を鳴らしながら、私は辺りを見渡す。
暗く、冷える通路を少し進むと、幾つかある扉の前で佐々さんが立ち止まる。
どこに連れて行かれるんだろうという不安は全くなく、佐々さんの後頭部を見上げていると、扉が開かれ、目の前に屋上へと続く見慣れた階段が現れた。
ここに繋がってるんだ……。
「内緒だよ」
「え」
もしかして……屋上に?
いいんですか?と私が口を開く前に、階段を昇り始める佐々さんは、途中で先を行くよう促してくる。
最初は躊躇したけれど、私はドアノブに手を伸ばすと、体重を預けるようにして重たい扉を――開けた。
「……ハ」
赤く染まりかけた空が目の前に広がっている。
求めていたものを前にして、私はため息する。
やっぱり、ここは落ち着く。
雲に隠れていた夕陽が顔を覗かせると、立ち尽くした私は目を細めた。
通い慣れた病院がすぐそこにあって、そこから見た景色とはまた違う街の様子を見下ろして、大きな空は私を見下ろす。
下にいた時より風があって少し肌寒く感じるけれど、風は、今この場所に立っている実感を与えてくれる。
暫くの間後ろにいる佐々さんの存在を忘れて、首が痛くなるくらい上を向いたまま近付いた空を眺めた。
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