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「……どうしていつも、前髪にキス、するんですか?」
「え?」
佐々さんのマンション、寝室、オレンジ色の照明の下。
最初のキスは、判子みたいなものだった。
金曜の彼の代わり、付き合うかという提案に、まるでそれが契約のサインのような、そんなキス。
佐々さんとのキスは、あの最初の一度だけ。
触れて、唇を這わせても、佐々さんは絶対キスをしない。
だから、前髪に落とされるキス1つに、私はいつも落ち着かなくなる。
――トクン、トクン
今も静かに速くなり始める鼓動に、疑問を投げかける自分と、落ち着かせるための言葉を掛ける自分がいるんだ。
「どうしてだろう……」
独り言のように呟いた佐々さんは、考える素振りを見せながらベンチまで歩いてく。
腰を降ろすと、
「可愛いから?」
表情の無い顔で言った。
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