イタいの(後編)

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「……どうしていつも、前髪にキス、するんですか?」 「え?」 佐々さんのマンション、寝室、オレンジ色の照明の下。 最初のキスは、判子みたいなものだった。 金曜の彼の代わり、付き合うかという提案に、まるでそれが契約のサインのような、そんなキス。 佐々さんとのキスは、あの最初の一度だけ。 触れて、唇を這わせても、佐々さんは絶対キスをしない。 だから、前髪に落とされるキス1つに、私はいつも落ち着かなくなる。 ――トクン、トクン 今も静かに速くなり始める鼓動に、疑問を投げかける自分と、落ち着かせるための言葉を掛ける自分がいるんだ。 「どうしてだろう……」 独り言のように呟いた佐々さんは、考える素振りを見せながらベンチまで歩いてく。 腰を降ろすと、 「可愛いから?」 表情の無い顔で言った。
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