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「……」
可愛いと言われてヤな気はしない。
思うのは、一体どんな気持ちで言ってるんだろうってこと。
……そう思うのも可笑しいのに。
理由を付けたがっている自分がいる。
前髪へのキスは、泣きやます為の行為なのか。
ならそれは、泣いてる子供に子守唄を唄って寝かしつけるのと同じ。
……同じだよ。
「いいんですか……勝手に屋上開放したりして。それに、まだ仕事の途中だったんじゃ」
「あぁ、最後の段ボールを運び終えたところだったし。そこでちょうど、おたくの姿見つけて……」
「……他の人、いませんでしたね」
「皆帰った後だから」
ベンチの背もたれに頭を乗せて空を仰ぐ佐々さんは、戸締まり役の特権だよ、と言う。
彼の手の中で、チャリ……と屋上の鍵が鳴る。
悪いことをしているみたいで――でもなんだかそれが、気持ちいい。
「カーディガン羽織ってるの、久し振りに見ました」
「この時季、夕方は冷えるから」
「変わらず、水色なんですね」
「好きなんだよ」
ベンチの前まで行って、彼の隣に座る。
「……ごめんなさい。感じ、悪かったですよね」
「……」
会わなかった間なにをしてたとか、今日まで文化祭があって、我慢出来ずに泣いてしまった柴田さんとの事とか。
何度も言いよどむ私の話を、佐々さんはピクリとも動かないで聞いていた。
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